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100話 二人で一人

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-07-10 08:01:57

まず私達は地面を凍てつかせ奴の足場を奪う。移動を制限することにより戦闘で有利にさせるのに加え、十数メートル先で膝を突く二人に攻撃の手が行かないよう牽制する。

「水と熱で氷か……面倒だな」

奴は転ばないようにかかとやつま先で滑りをコントロールしながら受け手に下がる。こちらは氷を自由自在に扱えるので、足元のものを弄り巧みに滑って加速し急接近する。

接近しながら即座に武器を槍に変えて突きを繰り出す。ギリギリで躱されるものの奴の表情に焦りが出始める。

「二人の力が単純に足された……だけじゃなさそうだな」

「当たり前だよ。私達二人はそんな単純な関係じゃない……!!」

私のこの中で燃え盛る力は注ぎ込まれた希望とは釣り合わない。それよりも更に多く、現在進行形で増え続けている。

「ならそれすらも叩き潰すだけだ!!」

奴は触手を展開させ私ではなく横の壁を突き刺す。それを頼りにしてテクニカルに動き予測し辛い軌道を描く。

そんな動きから放たれる鎌の位置は不鮮明で防御がままならない。細い槍ではなく銃に武器を変形させて防ぐがそっちに集中してしまい足がおろそかになり衝撃を受け止めきれず地面をかなり滑らさせる。

(やっぱ一筋縄ではいかない……か)

[大丈夫高嶺!? 怪我ない!?]

[ダメージはないよ! でもやっぱパワーは向こうに軍配が上がるみたい。ここまで押し除けられちゃった]

波風ちゃんと一つになったとしても今の奴は油断できる相手ではない。毒も効くだろうしきっと奴の全力の攻撃を叩き込まれたら再起不能となるに違いない。

[来るよ高嶺!!]

奴が凍てついていない部分を上手く伝ってこちらに接近する。銃で撃ち落とそうと応戦するものの触手を動かしてひらりと躱す。

奴との距離が半分程に縮まったあたりで壁の一部を曲がった氷に変え、そこに水圧レーザーを発射する。反射し奴の死角から迫るレーザーは虚を突き触手を数本を切り落とす。

「うおっ……!?」

奴はぐらりとバランスを崩し急いで追加で触手を壁に突き刺して落ちないようにする。だがその間にも三発レーザーを発射し奴の外皮を抉る。それでも硬く貫通まではいかず軽傷に留まる。

奴もそのダメージをくらったまま引き下がることなどせず、崩れたバランスのまま衝撃を受け流すように一回転した後鎌を縦に振り上げる。振り下ろ
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